翻訳アメコミ(主にマーベル)のレビュー・感想を置くところ。オタクが奇妙なテンションで推しを語ったりするよ! ていうかそれしかしてない! 絶版モノも扱ってます。ネタバレがめっちゃあるのでお気をつけください。
それにしても、この第8巻では、ピーターのなげきもまったくもっともで、忍耐の限界を超えているようです。なにしろ、こともあろうに、メイおばさんが宿敵ドクター・オクトパスと結婚しようとするのですからね。
さらに、石あたまの怪人ハマーヘッドも加わっての混戦で最後には、原子炉の大爆発。
そのうえさらに、いよいよグリーン・ゴブリン二世の登場です。
十二指腸潰瘍に悩むスーパー・ヒーローなんて、アメリカのコミック・ブックの歴史40年のあいだにも、聞いたことがありませんが、わがピーター・パーカーことスパイダーマンは、その最初としての名誉をになうことになります。
しかし、この第7巻でのスパイダーマンは十二指腸潰瘍どころのさわぎではありません。恋人のグエンドリン・ステイシーが死んでしまったからです。ふつう、マンガの世界では、主要な登場人物が死ぬということはないのですが(たとえば、「スーパーマン」では、恋人のロイス・レインが死んだなんて話は聞いたことがありませんね)、マーベル・コミックスでは、しばしば、こうした読者をびっくりされる重大事件が起きるのです。
スパーダーマンのコミックスは、スーパー・ヒーローものの形をとりながら(もう、みなさんもお気づきだと思いますけれど)ひとつの青春の物語になっています。
ここでは、主人公であるピーター・パーカー青年が、さまざまな人間関係のなかで、思い、憎み、試練を経て成長していくありさまが、ていねいに描かれいます。
問題は、その人間関係で、この第6巻には彼をめぐる2人の女性が、重要なからみあいを見せます。それも、老いた女性とうんと若い娘――つまり、メイおばさんと、グエン・ステイシーの2人です。
おばさんに向かって、グエンドリンが、「あなたはピーターのことを、かまいすぎるのよ。過保護で、あの人をダメにしちゃうんだわ」という意味の言葉を、はっきり言ってしまったので、また事態はややこしくなってしまいます。
しかし、そんな気持ちのもつれを通して、ピーターとグエンのあいだの感情が、ぐんぐん、たかまっていきつつあることに、みなさんは気づかれると思います。ピーターにはグエン以外の女性はいないし、グエンにはピーター以外の男性はいないということを、おたがいがはっきり意識してしまいます。
それにしても、こうしてスパイダーマンのコミックスを読み続けてみると、つくづく、グエンというのはいい女だという気がしますね。心やさしく、思いやりがあり、明るく、細かい所によく気のつく娘……その誠実な人柄は、だれの心をも暖かくしてくれます。わたし自身も、読んでいるうちに、ピーター・パーカーとおなじ気持ちになって、グエンの心の動きが気になってくるのですが、しかし、2人の感情のたかまりが頂点に達したとき、思いがけない事件が起こります。
「スパイダーマン」のコミックス史上最大の衝撃であったその悲劇は、次の第7巻に描かれます。どうかお見逃しのないようにね
スパイダーマンのからだから、4本の手がはえてきたのは、アメリカ版のコミック・ブックでは、1971年のことでした。
ところで、この日本版第5巻をお読みになればおわかりのように、そのあと、彼は吸血人間モービウスに出会い、その事件のなかで、はえたばかりの余分の4本の手は消え、スパイダーマンは、もとの姿にもどります。せっかく「スパイダーマン」100号記念に、スタン・リーが考え出した異変なのにあっさりとやめてしまったのには、わけがあります。
この6本の手を扱うようになった新しいスパイダーマンに対し、読者から、抗議の投書が殺到したのです。あまりにグロテスクだ、安易な設定だ、いくらクモが8本足だからって、これじゃ子どもだましの怪物じゃないか――それで、マーベル・コミックスとしては、あわてて、彼をもとの姿にもどさなければならなかった、というわけです。
また、この巻では、グエンドリンの水着姿がはじめて紹介されています。ギル・ケインの描く彼女は、なかなかセクシーだと思いませんか。それに、ピーターとグエンがいっしょに旅に出る(それも南極の果てまで)なんてことも、珍しいではありませんか……。
この巻には、初めてグリーン・ゴブリンが登場します。ゴブリンというのは、日本にはなじみがありませんが、いたずら者のこびとの妖精の一種です。西洋では、こびとや妖精族については長い伝統があり、種類も性格もさまざまなので、注意しなくてはなりませんが、だから、悪役として、小鬼のようなキャラクターが登場しても、アメリカでは違和感はないのでしょう。
このゴブリンの息子がハリー・オズボーンで、この巻で、彼は麻薬を服用して倒れてしまいますが、このエピソードが描かれた1969年ごろは、アメリカでもドラッグに対する規制がいまより厳しく、マーベルのスタン・リーは、「スパイダーマン」のなかで反ドラッグのキャンペーンを行い、注目されたものです。